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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)5530号 判決

原告 破産者株式会社アイ・シー・モリタニ破産管財人 針谷紘一

右訴訟代理人弁護士 阪本清

被告 株式会社鳥井屋

右代表者代表取締役 鳥井徳夫

被告 石川玩具株式会社

右代表者代表取締役 斎藤武郎

被告 株式会社 協玩

右代表者代表取締役 竹内末雄

被告 株式会社浅草玩具

右代表者代表取締役 上野五郎

被告 株式会社 河田

右代表者代表取締役 河田親雄

右五名訴訟代理人弁護士 増田浩千

被告 株式会社ツクダ

右代表者代表取締役 佃義範

右訴訟代理人弁護士 今泉直俊

主文

一、原告に対し

1. 被告株式会社鳥井屋は金四六万〇四七五円

2. 被告石川玩具株式会社は金二七八万一四七三円

3. 被告株式会社協玩は金一二三万三六六三円

4. 被告株式会社浅草玩具は金一二五七万二八一六円

5. 被告株式会社河田は金四三二万六五二〇円

6. 被告株式会社ツクダは金四四六万二七九二円

及びこれらに対する昭和五七年一月一〇日以降各完済に至る迄年六分の割合による金員の支払をせよ。

二、原告の被告石川玩具株式会社、同株式会社浅草玩具、同株式会社ツクダに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一、申立

一、原告

1. 原告に対し

(一)  被告株式会社鳥井屋(以下被告鳥井屋という)は金四六万〇四七五円

(二)  被告石川玩具株式会社(以下被告石川玩具という)は金三四一万八〇一二円

(三)  被告株式会社協玩(以下被告協玩という)は金一二三万三六六三円

(四)  被告株式会社浅草玩具(以下被告浅草玩具という)は金一三二八万〇二一六円

(五)  被告株式会社河田(以下被告河田という)は金四三二万六五二〇円

(六)  被告株式会社ツクダ(以下被告ツクダという)は金四六二万三五五二円及びこれらに対する昭和五七年一月一〇日以降各完済に至る迄年六分の割合による金員の支払をせよ。

2. 訴訟費用は被告らの負担とする。

3. 仮執行宣言

二、被告ら

1. 原告の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、主張

一、請求原因

1. 訴外株式会社アイ・シー・モリタニ(以下破産会社という)は昭和五五年一月一一日大阪地方裁判所に対し会社更生手続開始の申立をなしたが、同年二月六日右申立を棄却する旨の決定がなされ、同年二月一五日同裁判所において会社更生法二三条、破産法一二六条一項により破産宣告(同庁昭和五五年(フ)第四六号)を受け、同日原告が破産管財人に選任された。

2. 破産会社は電子玩具を

(一)  被告鳥井屋に対し昭和五四年一一月二一日から同五五年一月九日迄の間合計二五一万九八四五円売渡し、四六万〇四七五円が

(二)  被告石川玩具に対し同五四年一一月二一日から同五五年一月一二日迄の間合計二〇四六万〇一九二円売渡し、三四一万八〇一二円が

(三)  被告協玩に対し同五四年一一月二一日から同年一二月二六日迄の間売渡し、一二三万三六六三円が

(四)  被告浅草玩具に対し同五四年一一月二一日から同年一二月四日迄合計四〇五七万五〇七八円を売渡し、一三二八万〇二一六円が

(五)  被告河田に対し同五四年一二月一日から同年一二月二七日迄の間売渡し、四三二万六五二〇円が

(六)  被告ツクダに対し同五四年一一月一六日から同五四年一二月二二日迄の間合計一〇〇五万九二〇五円を売渡し四六二万三五五二円が

各未払となっている。

3. よって、原告は被告らに対し申立第一項記載のとおり右各未払金とこれに対する訴状送達の翌日である昭和五七年一月一〇日以降完済に至る迄商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

(被告ツクダを除くその余の被告)

1. 請求原因1は認める。

2. 同2の中

(一)は認める。

(二)は否認する。未払分は二七八万一四七三円である。

(三)は認める。

(四)は否認する(右期間中の買掛金合計は三一四五万九一六八円である。前渡金も合計七九五万六〇三一円である。)。

(五)は認める。

3. 同3は争う。

(被告ツクダ)

1. 請求原因1は認める。

2. 同2の(六)は否認する。

3. 同3は争う。

三、抗弁

(被告ツクダを除くその余の被告)

1. 破産会社と被告らの売買契約は、保証書による保証義務の履行、適正価額による売却が不能となったことを解除条件とするものであり、そうでないとしても保証書による保証義務の履行、適正価額による売却が不能となった場合には、買主は在庫商品を返品することによって代金支払義務を免れるとする商慣習が玩具業界には存し、以上が認められないとしても買主たる被告らは保証義務の履行及び適正価額による売却が可能なことを前提として契約を締結したものであるから、これが不能となった以上売掛代金を全額請求することは信義則上も許されず、買主の被った在庫品相当額の損害を控除するのが公平である。

2. 被告鳥井屋は三三四万八一八〇円の、被告石川玩具は金四一〇万三六三四円の、被告協玩は金一二九万五二五〇円の、被告河田は四七一万六八〇〇円の各返品商品をかかえているところ、破産会社の倒産により前示の保証義務の履行、適正価額での売却が不可能となったのであるから、解除条件の成就、商慣習、若しくは同額の損害の発生により、各買掛債務と対当額で相殺する。

3. 被告浅草玩具は金七八〇万二二三一円(仮に八二七万八一五五円の値引がないとすれば、金一六〇八万〇三八六円更に昭和五五年一月一二日から同年同月三一日迄の返品分五七一万九四三〇円が認められないとすれば二一七九万九八一六円)の返品商品をかかえているから前項のとおり対当額で相殺する。

4. 更に、被告石川玩具は破産会社に対し四六万九四九九円の反対債権を有するので、これを本件口頭弁論期日において原告の売掛代金債権と対当額にて相殺する。

(被告ツクダ)

1. 被告ツクダを除くその余の被告の抗弁1と同じ

2. 被告ツクダと破産会社との間には、商品が売れ残った場合にはいつでも返品できる旨の特約がなされている。

3. 破産会社の倒産により保証義務の履行が不能となり、流通価格(標準小売価格)も失ったことによって回復不能の不完全履行(欠陥商品)となったものであるから当然に契約は解除されたことになる。

4. 被告ツクダの破産会社に対する昭和五五年一月末日現在における買掛債務は三七万一一二七円にすぎないが、仮に原告主張の売掛債権が発生していたとしても、その後の破産会社及び破産管財人のダンピング販売(標準小売価格の一割)によって流通価格体系は破壊されたのであるから、信義則上原告の請求し得る金額は八四万〇六四五円にすぎない。

5. 被告会社は破産会社の倒産により得意先(小売店)からの返品を余儀なくされ、その合計額は七三九万四九一五円となり、これを二六〇万五五四五円で特価処分(所謂バッタ売処分)することによって金四七八万九三七〇円の損害を被った。

6. 被告ツクダと破産会社との間には、毎年一二月一〇日迄の仕入実績に対し四パーセントのリベートを破産会社から被告ツクダに支払う旨の合意が成立していた。

被告ツクダの昭和五四年一月から同年一二月迄の純仕入高は二九一八万四七二四円(総仕入高五二二六万四四八〇円から返品高二三〇七万九七五六円を控除した額)であるから、これの四パーセントに相当する金一一六万七三八八円のリベート請求権を被告ツクダは有する。

7. 被告ツクダは右損害賠償請求権及びリベート請求権をもって買掛金債務と対当額にて相殺する。

四、抗弁に対する認否等

(被告ツクダを除くその余の被告に対し)

1. 抗弁1は否認する。

被告ら主張の如き解除条件付売買契約がなされたこともなければ、その様な商慣習も存在しない。

2. 同2は否認する。

3. 同3は否認する。

4. 同4.中被告石川玩具が四六万九四九九円の反対債権を有することを認める。

(被告ツクダに対し)

1. 抗弁1は否認する。

2. 同2は否認する。

3. 同3は否認する。

4. 同4は否認する。

5. 同5は否認する。

6. 同6は否認する。

被告ツクダの右リベート請求権の主張は第二四回口頭弁論期日(昭和六〇年五月二九日)における証人金子信一の供述を踏まえて第二五回口頭弁論期日(同年七月一〇日)突如になされたものであり、しかも本訴提起後三年を経過し証拠調も終了し終結直前(原告側の立証は既に第一七回口頭弁論期日(同五九年五月七日)で終了)になされたものであるから、原告の防禦の機会を奪うものであって、時機に遅れた攻撃方法の提出として却下さるべきである。

7. 同7は否認する。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、破産会社が昭和五五年一月一一日会社更生手続開始の申立をなし、これの棄却決定を経て同年二月一五日破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任されたことは、当事者間に争いがない。

二、破産会社が被告鳥井屋に対し四六万〇四七五円の、被告協玩に対し一二三万三六六三円の、被告河田に対し四三二万六五二〇円の各売掛代金債権を有していたことは、当事者間に争いがない。

被告石川玩具に対する売掛代金につき検討するに、破産会社が昭和五四年一一月二一日から同五五年一月一二日迄の間に被告石川玩具に対し二〇四六万〇一九二円の納品をしたとしてその旨の納品伝票が送付されてきたこと、被告石川玩具は一七〇四万二一八〇円を支払済みであることは当事者間に争いがなく、一六万七〇四〇円相当の商品は納入されず、納品伝票のみが送付されたものとしてこの金額は控除する旨の合意がなされた(この点は原告は明らかに争わざるものとして自白したものとみなす)のであるから売掛残債権は三二五万〇九七二円となるところ、被告石川玩具が破産会社に対し有する四六万九四九九円の反対債権(この点は当事者間に争いがなく)を以って第一六回口頭弁論期日(昭和五九年二月六日)において対当額にて相殺したので、結局破産会社の被告石川玩具に対する売掛残代金は二七八万一四七三円となる。

次ぎに被告浅草玩具について検討する。

甲第一号証の一(成立について争いがない)、乙第D二号証(被告浅草玩具作成部分を除き成立について争いがなく、同被告作成部分については証人高田謹璋の証言によって成立が認められる)、証人守谷保雄の証言によれば、破産会社は昭和五四年一一月二一日から同年一二月二八日迄の間に被告浅草玩具に対し少なくとも三九八六万七六七八円の電子玩具等を売渡したことが認められ、これに反する前掲乙第D二号証の記載部分、証人守谷保雄、同高田謹璋の各供述部分はたやすく措信し難く、他にこれを左右するに足る証拠はない。

右期間中の売掛金から控除されるべき額が少なくとも二七二九万四八六二円(前渡金三八一万四一〇六円、返品分三三四万三八〇八円を含めて)を下らないことは原告も自認するところである(被告浅草玩具は更に控除されるべき額として五七一万九四三〇円の返品分があるとして乙D一号証の一乃至三〇(前掲高田証言により成立が認められる)、前掲高田供述を援用するが、いずれも破産会社倒産後の、しかもその大部分は保全管理人選任後であることからしてたやすく措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。前渡金四一四万一九二五円についても、これに沿う乙第D三号証の一乃至一五(前掲高田証言によって成立が認められる)はたやすく措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。八二七万八一五五円の値引についても、これを認めるに足る証拠はない。)から、結局被告浅草玩具の債務は一二五七万二八一六円となる。

最後に被告ツクダについて検討する。

甲第三号証の一(前掲守谷証言によって成立が認められる)、丙第一二号証の一乃至四(証人金子信一の証言によって成立が認められる)、前掲守谷、同金子各証言によれば、破産会社は被告ツクダに対し昭和五五年一月一一日現在少なくとも四四六万二七九二円の売掛債権を有していたことが認められ、他にこれを左右するに足る証拠はない(被告ツクダは返品分四一一万六三四九円が更に控除されるべき旨主張し、丙第九号証の一乃至三六(前掲金子証言によって原本の存在成立共に認めることができる)を援用するが、そのうち二三万五五一〇円(丙第九号証の一乃至六該当分)は既に控除済みであり、その余については前掲丙第九号証の七乃至三六によっても返品されたものとは認められず、他にこれを認めるに足る証拠はない)。

三、被告ツクダはリベート請求権の存在を主張する。

原告指摘の通り、被告ツクダの右請求権の存在についての主張は第二五回弁論期日において始めてなされたものであり(右主張に沿う書証として丙第一六号証が提出されたのは第二三回弁論期日における証人金子信一の証拠調手続中である)、提訴以来三年を経過した時点でもあることに照らせば重大な過失により時機に遅れて提出されたものであり、且つ訴訟の完結を遅延させるものと認められるので、これを民事訴訟法一三九条一項により却下することとする。

四、被告らは更に解除条件付契約(条件成就)、商慣習の存在、信義則違反、返品特約付契約等を主張するが、右の如き契約の成立、商慣習の存在を認めるに足る証拠はなく(証人高田謹璋、同金子信一、被告河田代表者本人の各供述はいずれも措信し難い)、破産会社の倒産によって破産会社から被告らが購入した商品が従前通りの価格では販売し得なくなったであろうこと、またかような場合特価処分(所謂バッタ売処分)もなされて流通価格体系に混乱が生じたであろうことは前掲高田、同金子証言を待つ迄もなく推認に難くないか、かような現象は倒産に不可避のものであり、買主においても既に計算済みの危険ということができるから、かような事態の発生をもって原告に主張し得るものではなく、原告の請求が信義則に反する(或いは信義則上請求額が制限される)ものとは認められず、その他原告の本訴請求を拒みうる、或いはこれを不当とする様な事情は何ら窺われない。

五、そうすると、原告の本訴請求は被告鳥井屋に対し四六万〇四七五円、被告石川玩具に対し二七八万一四七三円、被告協玩に対し一二三万三六六三円、被告浅草玩具に対し一二五七万二八一六円、被告河田に対し四三二万六五二〇円、被告ツクダに対し四四六万二七九二円及びこれらに対するいずれも訴状送達の翌日である昭和五七年一月一〇日以降各完済に至る迄商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を求めうる限度で理由があることになり、被告石川玩具、同浅草玩具、同ツクダに対するその余の請求はいずれも失当として棄却を免れない。

訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して(仮執行宣言については不相当と認め却下する)主文の通り判決する。

(裁判官 澤田英雄)

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